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The Nature of Nicholas ニコラスの心象世界

カナダ映画 (2002)

映画には、ニコラス役のジェフ・サットン(Jeff Sutton)とボビー役のデイヴィッド・ターンブル(David Turnbull)の2人の子役が登場する。主役はジェフだが、デイヴィッドの役も重要だ。映画の評価は分かれているが、それは、一見すると飛躍的かつ非論理的に見える筋が様々に解釈でき、その曖昧さが見る者に不信感を与えることと、場面転換が遅すぎて退屈に感じる点に原因がある。ジェフ、デイヴィッド、脇役を含めパッした俳優がいないことも原因であろう。

この映画には何通りもの解釈が可能であろうが、フロイトの精神分析学に準じ、オカルト的な要素を排すると1つの解釈しか残らない。ここでは、その線に沿った私流の解説を試みる。12才のニコラスは、父を最近亡くして悲嘆にくれ、母が他の男性に好意をもつのが許せず、唯一の大親友が最近女性に興味を持ち始めたのに嫉妬している。ニコラスがボビーに嫌々付き合って女の子のパーティに参加し、ボトルゲームでボビーがうまくやったのに、自分は相手に愚弄されたことにショックを受け、その心の空隙を埋めるように、父の姿が現われる(と思い込む)。そして、親友のボビーがニコラスの隠れ家を訪れた時、ボビーが女の子とうまくやったことへの羨望と、自分から離れていって欲しくないと思う切望から、衝動的にキスをしてしまう。しかし、ボビーにとってそれは忌まわしい行為であり、直ちに小屋から出て行く。その反応に衝撃を受けたニコラスは、自己保存のためボビーを自分の庇護下に置きたいとの意識下の願望により食屍鬼のような「ボビー2」を生み出す。そこから映画は、空想上の父とボビー2によって翻弄されるニコラスの日常を描く。しかし、最後に、再度ニコラスの自己保存が働き、ボビー2の存在を消し去り、次いで自分の中の「空想を生み出す悪い存在としてのニコラス2」の存在も消し去ろうとする。

ジェフ・サットンは晩熟(おくて)で意志薄弱な少年、デイヴィッド・ターンブルは異性に興味を持ち始めた活動的な少年を演じている。2人ともに、役者としての演技力が欠けている。そして、2人とも相前後して食屍鬼となるが、そのメイクもいま一つ。


あらすじ

映画は学校の廊下のロッカーで、ニコラスとボビーが話しているところから始まる。「やあニッキー、どうした?」。「君んちで明日何かできないかな、って」。「多分な。でもすることがない」。「ウチに来てもいいけど、ママが邪魔だろ」という具合に会話は進み、結局、ニコラスが「君んちで明日、何かしよう。夕食の後にでも」と言う。ニコラスの目は、憧れをもってボビーを見ている。ところが、その直後、ボビーの好きなジェナが通りかかる。さっそく、「明日、パーティやるって?」とボビー。「来たいの?」。「うん、できれば」。ニコラスは、さっき決めたばかりなので、「明日?」と不審げだ。ジェナ:「なぜ、来たいの?」。ボビー:「それって、招いてるの?」。「理由によるわ」。「行っちゃいけない理由がないから」。「じゃ、来て」。この会話は面白い。
  
  

ニコラスは、がっかりしたこともあり、行きたくない。しかし、ボビーが迎えに来たので、しぶしぶお供する。パーティの中心はボトルゲーム(瓶を回し、止まった時に瓶が向いている子にキスする遊び)。ボビーが挑戦し、当たった子と部屋に入り15秒で出てくる。軽いキス1回か? 次は、ニコラスの番。女の子と一緒に部屋に入る。初めてなので何をしていいか分からず、「君、ジェナの友達?」「何て名前?」と訊いてしまう。あきれた相手は、「これ、一度もしたことなんいでしょ?」と軽蔑したように言うと、電気を点けて、ニコラスの服装を乱し、自分の口紅を頬になすりつけ、最後に自分の服装も乱して、さも激しくやりあったかのように装って出て行く。屈辱感と敗北感でいっぱいのニコラス。
  
  

その反動は、家に帰り、自分の部屋の洋服ダンスを開けた時に現れる。ニコラスが大好きだった父の幻が、タンスの奥に顔を出したのだ。びっくりして床に気絶するニコラス。気が付くと、母に「気絶してたのよ」と言われ、「僕が?」と驚く。「大丈夫?」とママ。それに対する答えは、「パパを見た」。さっそく医者が呼ばれることに。
  

次の日、ニコラスの隠れ家にボビーがやって来る。ニコラスは、「僕、女の子と何もしてない。あの子が服をくしゃくしゃにしたんだ」と打ち明ける。「知ってる」とボビー。「だけど、あの子を襲ったみたいに見えたぞ」「ホントはどうだったかなんて問題じゃない。みんながどう思ったかが大事なんだ」。その言葉に救われた思いのニコラスは、「そう思う?」と言ってから、感謝の気持ちでボビーに軽くキスしてしまう。予想に反して、憤然として立ち去るボビー。それを小屋の前で悄然と見送るニコラス。この時のショックが、ニコラスを仮想現実の世界に引きずり込むことになる。ニコラスを軽蔑するボビーではなく、ニコラスを頼ってくれるようなボビー、ニコラスより下位にいることに甘んじるようなボビーの出現を、意識下で望んでしまったのだ。
  
  

ニコラスは、夢の中で、自分に対し話しかける父を見、目が覚めてからタンスの中をもう一度探す。父はいなかったが、その代わりに、家の入口のガラス戸に異様な姿をしたボビーが現われた。「ボビー2」の誕生である。食屍鬼のように変わり果てたボビー2を、隠れ家に連れて行くニコラス。ニコラス:「どうなってるの?」。ボビー2:「ごめんよ。家を出てきた。どこにも行くトコがない」。そして、「キスさせたのはマズかった」というボビー2の言葉。これは、「キスしたのはマズかった」と後悔するニコラスの心の反映である。
  
  

女の子に電話していて「今朝、ボビーから電話をもらった」と聞いたニコラスは仰天する。すぐにボビーの家に電話をする。ボビー:「もしもし」。ニコラス:「ボビー?」。「何だ?」。「家で 何してるの?」。「住んでる」。「そっちへ行くよ」。「いや、イエル道路にいる」。野原の1本道で会う2人。「大丈夫か、ニッキー? 僕は、自分で自分のことは分かる。キモい話だな。見てみろ、僕は元気だ」。「でも、僕、君を家に置いてきた。具合が悪くて。疲れきってる」。「そんなの うっちゃとけよ」。「君にそっくりなんだ。彼は君だ。違う?」「こんなこと言って、気を悪くした?」。「まあ、いいさ」。この会話、ボビーにとっては、ニコラスの気が触れたとしか思えない(前には、キスなんてするし…)。結局、相手にされなくて、ニコラスは立ち去る。
  
  

ニコラスの中で、ボビー2の存在がより親密なものに昇格する。つまり、ボビー2が、隠れ家からニコラスの部屋へ移ってくる(ニコラスの期待に沿って仮想現実を変化させた)。ニコラス:「どうやって、ここまで来たの?」。ボビー2:「ごめん。君の部屋で寝たいんだ」。「ママに、説明できないよ」。「それは君の問題だろ」
  
  

翌日、ジェナから電話がある。ボビーが来るから君も来ないか、という誘いの電話だ。ニコラスは、自分にそんな電話があるはずないと思っているので、父がジェナに電話させたと思っている。ジェナの家で鉢合わせたニコラスとボビー。ボビー:「何で電話しない。一緒に来れたのに。あれは、まだいるのか?」(調子を合わせて、好奇心で訊いてみた)。「まだ。でも、良くなってきてる」。「嘘つくな、ニッキー」(相変わらず変なのでがっかり)。2人目の女の子がやってきて、2対2となる。実は、ジェナはボビーに関心があり、家に呼ぶ口実にニコラスも来させたのだ。だから、すぐにジェナとボビーはぴったり。一方、初対面の女の子とニコラスは、もじもじ。遂に沈黙を破り、ニコラスが「その髪すてきだね」とお下げ髪を褒める。気を良くした彼女は、ニコラスの髪を編んで「可愛いわ」と言い、肩をもんでくれ、首すじを軽く噛む。これを喜ぶべきなのに「くすぐったいよ」などと言うので、ニコラスは見限られて終わり。年令の割に晩熟(おくて)なのだ。
  
  

ここで、ニコラスの奇行を心配したボビーが直接行動に出た。早朝から家に押しかけ、「そいつ、ここにいるのか?」「君の部屋に?」と訊く。「会わせない」とニコラス。「ごめんねボビー、でもできない」。「それ、僕なんだろ。なら、やりたいようにやる」。「もういないんだ。死んだんだ。ホントだよ」。ボビーは、ニコラスが嘘をついてるか、狂ってると思って帰っていった。
  
  

次が、一番分かりにくいシーンだが、母が汚いからと中のものを全部捨ててしまった隠れ家で、ニコラスが寝ている。すると、夢の中で、ボビーが、ニコラスの寝室に匿っているボニー2を連れに来る。目が覚めて寝室に言ってみると、ボビー2がいなくなっている。実はこれは、ニコラスの意識下でボビー2の存在が不要になりかけたことを示している。そして、ニコラスは、非現実の世界で、ボビーが車輪付きの木箱に入れたボビー2を埋めにいくのを見送る。ボビーは微笑むだけで一言も発しない。これは決別の儀式なのだ。しかし、ニコラスの中に潜む「悪しき部分」は、別れが残念でたまらない。だから、翌日、本物のボビーと野原で出会った時もぶっきらぼうに応対する。ボビー:「何してる?」。ニコラス:「歩いてる。足を伸ばして。君の方は?」。「ただ、歩いてるだけさ」。「ジェナんちに?」。「ああ。一緒に来ないか? ヴィッキーはいないけど、来たらいい」。「遠慮しとくよ。君は彼を連れてっちゃった。彼をどうしたの?」。ボビーは苦笑いしながら、「ここにいるだろ」と言い、見切りをつけて立ち去っていく。
  
  

ニコラス浄化の最終段階。ニコラスが仮想現実の世界で、夜、畑で寝ていると、体に異様な変化が始まった。朝起きてみると、自分の姿はかつてのボビー2のようになっている。ニコラス2の誕生だ。それを見ている父。ニコラスは父の後に続いて、どこまでも続く長い道を歩いていく。ニコラス2のために用意された路傍の家に向かって。これは、ニコラスが、自分の中の「悪しき部分」をニコラス2として葬り去るための儀式、ボビー2の埋葬に次ぐ第2弾なのだ。
  
  

路傍の家で、ベッドに横たわるニコラス2に向かって父が言う。「すべては過去のもの」「これは脱皮の儀式だ」「この道には、こんな家がいっぱいある」、そして顔まですっぱりと布団をかける。ニコラスの意識からボビー2もニコラス2も消えると同時に、過去を脱皮した新たなニコラスが誕生する。さっぱりとした顔で、学校に近付いて行くニコラス。校庭では男女が仲良く遊んでいる。今のニコラスなら、この雰囲気に自然と馴染んでいけるだろう。
  
  

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